麺棒操作の進化

2016年05月14日 10:34

 仲間内の雑談での話ですが「最近、(うちの蕎麦打ち)教室を見てると延しの作業をもっぱら平手延しで行う人が増えている」ということでした。
例のエンボス麺棒の影響も少なからずあるということのようです。私は個人的には、あまりいいことだとは思えません。以下、想像も入っていますが、麺棒の操作法について少し整理をしてみたいと思います。

麺棒操法は歴史的に見ると(というとオーバーですが、)次のようになると思います。

1 最初は平手から始まった。
 「そば切り」が始まったのは数百年前のようですが、その頃、麺生地を延すのに丸い棒を使えば効率的であるということが発見されたものと思います。
 その時の丸棒の使い方は、西洋におけるパン生地、中国における餃子皮を伸ばすときに使われていると同じやり方、「平手」であったと思われます。つまり、洋の東西を問わず考えることは同じだということです。(左;パン。右;餃子皮)
パン生地の延し 餃子皮の延し
 パンや餃子の皮では、(次に述べるような)蕎麦切りの場合のような必要性もなかったことから、操法の変化はなく、平手のまま現在に至っているということだと思われます。
 つまり、蕎麦打ちの場合、麺棒が使い始められた時、恐らく、その操作は平手によって行われました。

2 やがて、猫手による延しが行われるようになった。
 最初の頃の麺棒は、その断面も真円からは程遠く、直線性も良くありませんでした。しかし、打つ量は、多くてもお祝いごとの席(いわゆる"ハレ"の時)等など少人数だったでしょうから、平手による延しでも問題はありませんでした。
 そのうち、江戸時代(後期)になると、蕎麦切りが商売物になって来て大量かつ効率的に蕎麦を打つ必要性が出てきました。そして、それと相前後して、麺棒や打ち台の工作精度が上がってき、更には打ち粉を使って摩擦抵抗を減らすという工夫も加えられるようになったものと思われます。こうして、延しの作業においては、時間がかかる平手を止めて、猫手でサッサッときれいに手早く処理することが、ひとつのスタンダードになったものと思われます。 
 (下図;江戸時代の大きなそば屋(「摂津名所図会」より)
oogata sobaten
図の左上を見ると、厨房部分があり職人が麺棒を使って延しの作業をしています。
(下図;上図の一部拡大)
oogata sobaten tyubou

3 猫手にも3つの段階がある。
 猫手にも、手の動かし方によって3つのやり方があり、それぞれ次のような段階を踏んで、より高等なものになってきたのではないかと思います。(これは、一人の個人が麺棒操作を習熟していく際の状況と似ていると思います。)

(1)最初は「単純前後」操法だった(手を前後に平行に動かすやりかた)。
 猫手を始めた人は、恐らく最初は両手を揃えて前後に平行に動かしたと思います。(これは平手の延長であると捉えることもできます。)
 このやり方で十分なのですが、猫手にはひとつの致命的な欠陥?があります。
 麺棒を連続的に前進させるために麺棒を手の中で滑らせる必要がありますから、麺棒の下面を麺生地表面でストップをかけるような力(抵抗力)が発生しています。そのため、これによって、麺生地を引っ張る(引きずる)ことになってしまいます。(下図で錘(おもり)の部分は巻棒が置いてあるイメージ)
F4
 
 更に、麺棒を連続的に前進させる必要上、麺棒に加える力は、斜め下方向にならざるを得ませんから、猫手を使いながら、真上から効果的に加圧するということができません。(真上から押せば、前進できない。)
 (詳しくは、こちらこちらなどを見てください)
 実はこのことが嫌われて、冒頭に書いたように平手が使われるようになったようです。しかし、猫手でも真上から「効果的に押しながら」「転がす」とう両者を満足させる手があります(次項)。

(2)すぐに「ハの字」操法が取り入れられた
  生粉(十割)などのつながりにくい粉では、上のような単純「前後」操法では、生地が切れるリスクが高くなります。このため、手を「ハの字」に動かすことが、すぐに考え出されたものと思われます。「ハの字」操法によって、麺棒を前進(後進)させつつ、真上から加圧することが可能となります。(こちらを見てください。)(厳密に言うと、麺棒を前進させていますから、その分、引っ張る力が発生していますが、移動距離が小さいし、真上からの力が十分に卓越していますから、その影響は「単純前後」操法よりも非常に小さいと思われます。)
(写真では、麺棒を真上から押さえながら前進させています。)
ha-5.jpg

 実は、この「ハの字」操法は、私が蕎麦打ちを習い始めた十数年前に、本陣房の山本育磨社長による講習において、「延しの基本はこれです」と教わったやり方です。伝統からくる基本操法として存在している訳です。これを習った当時は、その理由や効果のほどは理解していませんでしたが、上のような理由によるものであると、最近理解できました。

(3)そして円形操法(「ハの字」の発展形)になった
 ハの字操法の欠点は、強いてあげれば、作業の連続性に欠けるということです。
 これを改善したのが、円形の操作です。
en-1.jpg

 円は斜線(ハの字)の組み合わせですから、上の述べたハの字の効果はそのまま期待出来ますし、無駄のない連続した動きで作業が可能となる訳です。(こちらを見てください。)
 私は、猫手による麺棒操作の究極の姿は、この円形操法ではないかと、個人的に思っています。


 以上、時系列的に麺棒操作の変遷を(独断と偏見で)眺めてみました。最終段階として、円形操作を掲げましたが、私は「これが最善であるのでこれを使うべき」と言うつもりはありません。上に掲げた色々なやり方を、麺生地の状況を見ながら、組み合わせて行えばよいのです。
 その考えで行けば、最初から最後まで平手で延す、あるいはこれをもっぱら多用する、という風潮は、どうかなと思いますね。色々な手法を駆使することをやめて、平手延しだけという制約を自らに課して不便な思いをしながら作業をするというのは、どうなんでしょうか。色々と試行することは大変良いことと思いますが、伝統的なものから大きく外れる時は注意を要すると思います。(こちらも参照してください。)


コメント

    コメントの投稿

    (コメント編集・削除に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)

    トラックバック

    この記事のトラックバックURL
    http://mokuyokai.blog18.fc2.com/tb.php/229-7b2f60fa
    この記事へのトラックバック


    最新記事