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水回し ― 加水量について

2014年03月03日 20:26

 弊ブログの読者のゴンゴロさんから、前回の記事に関連していくつかのご質問を頂きました。
 少し整理をしたいと思います。

Q1 適正加水率という言葉がありますが何を持って適正と言っているのかその定義が解りません。 

A1 (これはご質問ではありませんが、)まさにご指摘の通りで、この言葉はきちんとした定義なしに、なんとなく使われておりますね。
 それぞれの人が感じている「ある柔らかさの状態」を「適正だ、不適正だ」と言っている訳でして、(定量的な)定義そのものができない、ということかもしれません。
 また、たとえ同じ粉であっても、加水の仕方(逐次加水、一気加水など)によって最終加水量は異なりますから、ますます定義困難です。
 そういうことですから、「適正加水率」というよりも「(自分が)適当であると思う加水率」という位に捉えるのがよいと思います。

 さて、一般的に、水回し作業における水の管理は次のようになると思います
 ①予定量(=「(あなたが)適当であると思う加水量」)を心の中に決めて置いて、それより多めの水を準備する。(実際は、ざっくりと粉重量の半量ですね。)
 ②1回目の加水で80~90%位をドッと入れ、砂粒状態にし、第1段階を終了する。
 ③2回目の加水以降(第2段階)で、予定量を勘案しながら、粒の状態と指にまとわりつく水分の感触で加水の止め時を決める。その判断の大体の基準は、「この加水でピンポン玉になるかなぁ、どうかなぁ」ということでしょうか。

 通常、多くの皆さんがこういう風にやっていると思います。
 こうして、ひとつの作業が終わった時、結果として、その粉に対する「(あなたが)適当と思う加水率」が分かる、ということです。
 商売などで一日に何玉も打つのであれば、2玉目以降に、この「適正加水率」の意味がでてくるのでしょうが、我々のレベルではあまり意味を持たないような気がします。

 蛇足ですが、そもそも食べ物に関する価値判断は「個人の好み」に支配されています。蕎麦の場合は特に、繊細、微妙な部分が多いですから、数値化、普遍化ができない部分が多いように思います。
 弊ブログでは、あえて、その部分をできるだけクリアにしたいと思っていますが、「個人の好み」という限度線は踏み越えないようにしています。


Q2 多加水は蕎麦が美味くなるという方もいれば小加水が良いという方もいらっしゃいます。

A2 この説は、片倉康雄氏の本にも書いてあります。
 「片倉康雄 手打そばの技術(56p)」から引用します(青字

<引用開始>
 (引用者注;「手打ちの方が機械製麺よりも加水量が多量になる」という説明をした後、次の記述が続く。)
 手打のこの多量加水という特徴は、加水量を極端に減らして固ごねに過ぎた場合、腕や肩、腰などに負担がかかり過ぎて、仕事にならないところから生じたものである。つまり、加水量を多くするのは、打ち手が無理なく進めるための手段として、経験から割り出した「知恵」であるのだが、それが、ただの便法を通り越して「知恵」とまで呼べる所以は、そばの味のよさと結びついていることにある。
 含有水分の多いものは、含有水分の少ないものよりも早くゆだる,このこと―ゆで時間が短くて済むということは、麺類の場合、ことに大事な意味を持っている。
 釜の熱湯が、一本一本の麺の中心部にまで浸透して煮えた状態となるまでに、時間がかからないので、表面が煮崩れすることを防げる。その結果が、口あたりや舌ざわり、のど越しの快(こおろよ)さとなって生きてくる。
さらにもう一点、ゆで時間の短さは、風味が飛ぶことをも防ぐ。
 いずれも、そばの食べ味において、欠かすことのできない要素となるものである。このような食味をつくり出すうえで決定的に作用しているのが、すでに述べた加水量の多さと、そして、手打の延し方である。

<引用終わり>

 本来、多量加水は仕事のし易さのためなのだが、副次的に、水分が多いと熱が伝わりやすくなり、早くゆだるので、味にとって良いことである、と言っておられます。
 つまり、お味に関しても、多量加水が良いすなわち固めより柔らい方が良い、ということです。
 片倉先生の、「適正加水率」の「適正」とはこういうことを指す訳ですね。

 それから、上のご意見には、もう一つの含みがあります。
 それは、茹で時間は長すぎてはいけないということです。(参考;「茹で時間-達磨蕎麦会でのことを元にして」
 ちなみに、片倉先生は高橋邦弘氏の先生です。

 もとより、これは「個人の好み」の問題ですから、上もひとつの参考事項です。


Q3 ところで教えて頂きたいのですが第一段階で粉は砂粒状態になり、それ以上はいくら混ぜて大豆状にはならないとのことですが加水率が適正加水率?より多くても大豆状にはならないのでしょうか? 

A3 砂粒状、大豆状、あるいはピンポン状の状態から変化がない、つまり、いくら混ぜても粒が大きくならないというのは、次のような様子になっているのだと思います。
 下の図は、一回目の加水で蕎麦のでんぷん粒子が砂粒状になったイメージです。(一つの丸はでんぷん粒子で直径数ミクロン)
   水回し途中の粒の状況
 内部のA部分には水が存在していて、「架橋液膜」効果によって一つの塊になっています。
 一方、その外側(表面)のB部分は、水が十分に付着していない(水が回っていない)粒子からなっており、内側A部分の塊にまとわりつくような状態になっています。

 ここから言えるのは、次のようなことです。
① 一回目の加水なので、水が全体には回っておらず、水が付着している粒子と付着していない粒子が存在する。
② 表面のB部分の粒子は半分乾いた状態なので、砂粒同士は付着できない。だから、これ以上撹拌を続けても、状態の変化はなく、時間の無駄。
③ この状態に加水をすれば表面が水分を帯び、「架橋液膜」効果によって粒同士が付着し、形が大きくなる。
④ ②は加水不足の状態であって、③は、いわゆる「適正加水率」に近づいているのである。(ピンポン玉を作ることの意味はこの点にあります。)

 ご質問にもどりますと、砂粒状であっても、表面部分に相互にくっつきあうほどの水があれば粒は大きくなると思います。砂粒状から変化がなければ、上のような状態ですから粒は大きくなりません。


Q4 私は一気加水で最初は適正加水率?の95%で加水し残りは調整に使っています。あるプロの方は砂粒状態から捏ねに入っていますがこれは良いのでしょうか?

A4 第1段階が終われば、粉と水を均一に合わせるという作業は概ね終わっています。予定量の95%も入っていればほとんど完了といっても良いでしょう。
 そのプロの方の場合は、砂粒状態において必要な水が入り切ったと判断できるので、捏ねに移行するということなのでしょう。前の記事にも書きましたが、必ずしもピンポン玉を作る必要はありませんで、ピンポン玉になり得る水が入っていれば、捏ねに入っても良いのです。大豆状、ピンポン玉状…、というのは、仮に、これをナイフで半分に切れば、その中身はあたかも砂粒が密集している状態(架橋液膜で繋がっているだけ)です。
 したがって、この場合のように、砂粒状態を通過し、その時点でいわゆる「最適加水量」になっていれば、くくって練りに入って良い訳です。これによって、無駄な時間が排除され、時間短縮につながり、よりおいしいお蕎麦に近づきます。(参考;「時間短縮(作業効率)」―零戦設計における徹底的無駄の排除)

 ちなみに、高橋邦弘さんの蕎麦会の様子をみると、最初から予定量を全部入れてしまっています。
 2日間で3ケタの数の玉を打っていますので、ほぼ間違いないと考える加水量(適正加水量=(高橋氏が)適当であると思う加水量)を決定できる訳です。また、砂粒状態をつくるという操作は行われませんが、その必要は無いという考え方の水回しですので、それで良いということだと思われます。
 実際、最終製品として美味しい蕎麦が出来ていますから、それについて外野からとやかく言う筋合いは、全くありません。




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コメント

  1. ゴンゴロ | URL | -

    ご丁寧な説明をありがとうございました。
    ひじょうに参考になりました感謝です。

  2. 麺殿 | URL | -

    いつも楽しく読ませてもらっております。Q1とQ4ですが、粉の状態(つなぎの有無・石臼かロールか、粗びきか否か)によって打ちやすい(=最適な)柔らかさが少し変わるように思うんです。延しなどの操作のできる柔らかさの幅の中でですが、硬いほど整形や切りが楽になると思います。しかし良い生地にするためには柔らかめにしなければならない粉もあります。
    そこで、ピンポン玉になるまで加水が必要な粉と、不必要(そこまで柔らかくする必要がない)粉に区別され、後者(二・八そばを想定してますが)では敢えて加圧でピンポン玉にすることが勧められる事があるようです(これが必要か否かは別として)。

  3. 管理人 | URL | G5Zeud3U

    >いつも楽しく読ませてもらっております。Q1とQ4ですが、粉の状態(つなぎの有無・石臼かロールか、粗びきか否か)によって打ちやすい(=最適な)柔らかさが少し変わるように思うんです。

    →確かに、それはあると思います。
     生粉打ちの場合や粗挽きの場合、つなぎ有りの場合や普通粉の場合に比べて粉同士の結合が弱くなりますから、水分を多めにする必要があるので、結果的に柔らかめになるということがあると思います。

    >延しなどの操作のできる柔らかさの幅の中でですが、硬いほど整形や切りが楽になると思います。

    →やや硬めの方が操作しやすい、ということですが、硬さ/柔らかさというのは感覚的なものですのでなんとも言い難いところがあります。「硬過ぎや柔らか過ぎになればなるほど作業はしにくくなる」と言うにとどまるということではないかと思います。
     
    >しかし良い生地にするためには柔らかめにしなければならない粉もあります。
    そこで、ピンポン玉になるまで加水が必要な粉と、不必要(そこまで柔らかくする必要がない)粉に区別され、後者(二・八そばを想定してますが)では敢えて加圧でピンポン玉にすることが勧められる事があるようです(これが必要か否かは別として)。

    →冒頭書かれた「粉の状態(つなぎの有無・石臼かロールか、粗びきか否か)」によって、加水量が異なり、その結果、製品としてのドウの柔らかさも変わる、ということだろうと思いますね。この辺(硬い、柔らかい)は、個人の感覚によるとことが大きいのでなんとも言えない部分が大きいように思います。
     なお、「『加圧でピンポン玉にする』と勧められる事がある」とのことですが、「加圧で」ピンポン玉にするのではなく、砂粒状の粒が、加水された水分によってくっつきあって自然に大きくなるというだけの話ではないかと思います。(ピンポン「玉」としてつるつるのきれいな玉にはなりますが、それは鉢の底に圧迫されてきれいになっているだけであって、(積極的な)加圧によるものではありません。くどいですが、単にくっ付きあっているだけです。)
     ピンポン玉にする意味は、そうすることで、適度な柔らかさのドウに成し得るに必要な水分が与えられているという確証が得られる、という点にあるのであって、いうなれば確実性の保証という位置づけである、と私は思いますがいかがでしょうか。

  4. 麺殿 | URL | -

    加圧を勧める方のHPからの引用です
    http://www2e.biglobe.ne.jp/~soba/teuti2.htm
    「そして全体がしっとりしたら、ここからは後半部に入り、軽く上から圧迫しながら攪拌することにより粒と粒をくっつけてだんだん粒を大きくしていくようにします。手のひらで鉢の底に押し付けるようにしながら大きく両手を動かし攪拌します。そうすると、徐々に小さな粒が出来てき、それが小豆大から大豆に、そしてソラマメにと大きくなっていきます最後はピンポンダマ大になれば加水は終了です。最後の調整に入ります。」
    (中略)
    「教本の中には、粉同士が自然にくっつき合うまで水回しをしろと書いてあるものがあります。私の感覚では、粉同士が自然にくっつくまで水を入れると、ちょっと入れすぎになる場合があります。ある程度くっつくように手助けをしてやる必要があります。」
    (改めて読み返してみると初心者のための文章でした。そのあたりが練達者の管理人さんの感覚との違いなのかもしれません。お付き合いいただきありがとうございました)

  5. 管理人 | URL | G5Zeud3U

    >加圧を勧める方のHPからの引用です
    http://www2e.biglobe.ne.jp/~soba/teuti2.htm

    →このページは、私も訪問したことがありますが、(私が言える分際ではないのですが)文字が多いので熟読をしませんでした。しかし、今回あらためて読んでみると大変参考になることが書いてありますね。水回しの捉え方も私とほぼ同じです。自信を持ちました。

    >「そして全体がしっとりしたら、ここからは後半部に入り、軽く上から圧迫しながら攪拌することにより粒と粒をくっつけてだんだん粒を大きくしていくようにします。手のひらで鉢の底に押し付けるようにしながら大きく両手を動かし攪拌します。そうすると、徐々に小さな粒が出来てき、それが小豆大から大豆に、そしてソラマメにと大きくなっていきます最後はピンポンダマ大になれば加水は終了です。最後の調整に入ります。」 (中略)

    →ここで言っている加圧は、(捏ねのような)加圧ではなく、「…軽く上から圧迫…」という程度の加圧のようです。次の記述とも関係します。

    >「教本の中には、粉同士が自然にくっつき合うまで水回しをしろと書いてあるものがあります。私の感覚では、粉同士が自然にくっつくまで水を入れると、ちょっと入れすぎになる場合があります。ある程度くっつくように手助けをしてやる必要があります。」

    →加水量に関しては、この方の言われるとおりかもしれません。
     撹拌の仕方について、実際私も、「ある程度くっつくように手助けをして」やっています。
     自分の意識では、自然にくっつきあうように作業しているつもりでしたが、よーく、思い起こしてみると、実際は粒を大きくする段階では上の記述のように軽く圧迫をしております。
     これは加圧といえば加圧ですが、「柔らかさ」という言葉と同じく、しっかりと定義づけをする必要がありますね。(なかなか難しいです。)

    >(改めて読み返してみると初心者のための文章でした。そのあたりが練達者の管理人さんの感覚との違いなのかもしれません。お付き合いいただきありがとうございました)

    →でも、今回しっかり読みまして、大変参考になりました。
     引き続き、コメントをお送りくださいますようお願いします。
     このあいだ雑談しました「体重の使い方(体捌き)」について、今、ぼんやり考え中です。うまく整理がついたら、アップします。

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