水回しを2段階に分けて捉える ― 粒を育てる意味

2014年02月21日 15:21

 水回しのやり方として、「粒を育て、最後にはピンポン玉程度にまで持って行く」という考え方があります。私はこれまで、ピンポン玉にまでするということに疑問を感じていたのですが、今回、こういうことではないかという一応の整理をしましたので、ご紹介したいと思います。
 水回しというのは、2段階(2つの作業)に区分して捉えるのが良いと思います。
 そして、この2つの段階の作業にはそれぞれに異なる作業目的があり、それらは次のようになります。
■目的1(第1段階);「粉と水とを均一に結合させること」
 これは、いわゆる「粉の一粒と水の一粒を合わせる」ということですが、物理学的に見ると、「全ての粉粒の一粒一粒が『架橋液膜』効果によって、全体として均一に結合している状態を作ること」ということになります。 「…水の一粒と合わせる」といっても、水の粒がが存在している訳ではありません。「架橋液膜」の効果(水の表面張力)によって、下図の②のように粉粒同士が付着しているという状態になることを指します。(参照;『「繋がる」とは「接着」である?(2)-紛体の科学』

      z3
         [図] 付着力の正体 「紛体の科学:ブルーバックス」

■目的2(第2段階);「適度な柔らかさのドウになるような加水をすること」
 ドウが硬いということは、水分が不足しているということですので、粉同士の結合に十分な強度が得られず切れやすくなります。また、延し作業が円滑に行えず、不要の負荷がかかりますから、作業上も適当ではありません。一方、過度に柔らかくなると、これまた作業がしにくくなります。(お味にどう影響するかについては良く分かりません。)
 つまり、適度な柔らかさのドウを作るための適度な量の加水が行われなければならないということですが、それはこの第2段階で処置されるということです。これは、目的1と同じ位に重要なことです。

 以上のように、水回し作業は「粉と水を合わせること」と「加水量を適切にすること」の2つの作業から成り立っていると捉えるのが良いと思いますし、実際の作業もそのように区分できます。
 そして、この「加水量を適切にすること」のポイントが、「造粒(粒を育てる)」という過程にあります。水回しでは、よく、「粒を育て、最後にはピンポン玉状にしなさい」と言われていますが、実はこれは適度な加水を確実に行うための先人達の知恵なのではないか、と思うのです。

 以下、説明をします。

●第1段階の様子
 下の写真は、一回目の加水(予定量の80~90%投入)をして数分後の状態です。水が行き渡って、ザラザラの「砂粒状」になっています。
 粒-1

 水回しの目的は、いわゆる「粉の一粒と水の一粒を合わせる」ことであると良く言われますが、ミクロンの世界を見ることはできないので、我々の目で確認できる最小の大きさ ― 例えば写真のような砂粒状態 ― を作り出し、これをもってOKと判断する訳です。
 この状態は、ほぼ予定量に近い量の水を投入していますから、水回しとしては概ね目的を達成しているといっても良い状態になっています。
 しかし、この砂状の状態を撹拌し続けても、玉にはなりません。(従って、ドウにもならない。) また、この段階でまとめても、水分不足の硬いドウになってしまいます。従って、次なる作業が必要になります。
 その作業とは、残りの10~20%の水を使って、砂粒同士を付着させて、玉にし、更にこの玉同士を付着させてドウにしていくという行程です。そして、実は、この行程こそがドウを適度な柔らかさにすること(最適加水量の決定)に他なりません。これが、次の第2段階です。

●第2段階の様子
 上の写真の状態に対して若干の水を追加したのが下の写真です。
 粒を育てる途中段階にあたります。
 粒-2

 さらに、下の写真は、上の写真を拡大したものです。
 形状だけを見ると「砂状→大豆状」になっていますが、大豆状の粒の中身(実体)は、砂状の粒が『架橋液膜』でくっ付きあっている状態なのです。(後出の模式図参照)
 粒2-2

 下の写真は、更に若干の加水をして、「大豆状→ピンポン玉状」にしたものです。これも上の場合と同じく、形状が変化しただけであって、内容物(実体)としては砂状の粒が集合しているだけです。(なにが言いたいかと言いますと、粉と水とを合わせる作業は既に終わっていて、この段階は、粒を大きくしているだけですよ、ということです。)
 粒-3

 この第2段階というのは、見掛け上は「小豆状→ピンポン玉状」の過程を指しますが、実はこれには次のような重要な意味があるのではないかと思います。
 この段階というのは、玉を育てることが目的なのではなく、玉を作ることで最適な加水量を決定できる、という点に最大の意味があります。
 形状が大きくなって、ドウの状態に近づいている訳ですから、加水量の適否が目に見えて分かりやすくなっていると言える訳です。なぜなら、「ピンポン玉は擬似的なドウ」ですから、良いピンポン玉が出来れば良いドウが約束されるからです。

 でも、(理屈はこうですが、)実際上は、わざわざ手間を掛けてピンポン玉を作る必要はありません。
 ピンポン玉を実際に作ることは、作業を確実にするためには有用ですが、結構時間がかかりますし、(繰り返しですが)玉を作るのが目的ではないからです。
「大豆状」に最後の加水をした時点で、これでピンポン玉になり得ると判断できれば、まとめてしまっても良いのです。通常、こうしていますね。


 第2段階をイメージ図で補足をすると、次のようになります。
  第2段階のイメージ

 左側は砂粒状の状態、つまり所定量に近い加水が行われ、全体に均一に水が回っている状態です。(実際はもう少し色々な大きさ、形状ですが、単純化して表現しています。)
 個々の砂粒は、表面張力があることから、また、表面からの乾燥もあることから、水分が中央部分に多く含まれており、表面近くは水分が少なくなっていると思われます。この結果、砂粒同市の付着はしにくいので、この状態で撹拌を続けても、粒はそれ程大きくなることはありません。

 そこに、若干の加水をしてやると、架橋液膜の効果によって、粒同士が付着し、大豆状になります。この時、加水が多すぎると、もそもそした塊になりますから、加水は、架橋液膜の効果が出る程度の量でなければなりません。
 (更に、「大豆状→ピンポン玉状」の変化もこれと同様の理屈で進行します。)

 こうして、形状をピンポン玉状にするための最後の加水をした時点が、結果的に最適加水量になる、ということだと思います。


蛇足ですが、以上をまとめると、つぎのようになります。
 ①水回し作業は、2段階で把握するのが良い。
 ②第1段階は全体を砂粒状にすることである。
 ③第2段階は、造粒をしつつ、ピンポン玉にし得る加水をすることである。(必ずしもピンポン玉にすることを要しない。)
 ④ピンポン玉レベルにまでするのは、適正加水量を確実にするためという意味がある。

 このような見方で粉の状態を観察しながら作業をすれば、作業の整理ができ、またミスも小さくなるかな、と思います。





   粒3-2
   このようになるための水分が与えられていれば、実際にここまで作る必要はない



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コメント

  1. ねこっち | URL | jEoNSDQ.

    いつも参考にしています。
    私も、表現こそ、違いますが
    同感します。
    約10分で、ピンポン玉にするのを
    目標に頑張ってみます!
    ピンポン玉まで出来れば
    最高ですよね(^-^)/

  2. 管理人 | URL | -

     コメントありがとうございます。

     習い始めの頃には水回しというのがよく分からなかったのですが、だんだん整理されてきたような気がします。
     まだまだ疑問点がありますので、徐々に明らかにして行きたいと思っています。

  3. ゴンゴロ | URL | -

    参考になる記事が多くありがたいと思っています。

    適正加水率という言葉がありますが何を持って適正と言っているのかその定義が解りません。

    多加水は蕎麦が美味くなるという方もいれば、小加水が良いという方もいらっしゃいます(築地アカデミーの井上明先生)。

    ところで教えて頂きたいのですが第一段階で粉は砂粒状態になり、それ以上はいくら混ぜて大豆状にはならないとのことですが

    加水率が適正加水率?より多くても大豆状にはならないのでしょうか?

    私は一気加水で最初は適正加水率?の95%で加水し残りは調整に使っています。

    あるプロの方は砂粒状態からくくりに入っていますがこれは良いのでしょうか?

    勝手な質問で申し訳ありません。

  4. 管理人 | URL | -

    …次のエントリーで。

     ゴンゴロさん
     コメントありがとうございます。

     図を入れて説明したが良いと思いますので、次回に整理をしたいと思います。
     アップの時期は、明日からちょっと忙しくしてますので、来週中盤にでも。

  5. ゴンゴロ | URL | -

    ありがとうございます。

    くくりは捏ねの間違いでした。

  6. ゴンゴロ | URL | -

    あるプロの方とはこちらです。
    file:///C:/Users/gdaibutuk/Desktop/%E4%BD%8F%E5%AE%85%E8%A1%97%E3%81%AE%E6%89%8B%E6%89%93%E3%81%A1%E8%95%8E%E9%BA%A6%E5%B1%8B%E4%B8%89%E4%BB%A3%E7%9B%AE%E3%83%96%E3%83%AD%E3%82%B0%EF%BC%A0%E3%81%95%E3%81%84%E3%81%9F%E3%81%BE%E5%B8%82%E3%81%95%E3%81%84%E3%81%9F%E3%81%BE%E6%96%B0%E9%83%BD%E5%BF%83.htm

  7. 管理人 | URL | -

    URLは、ゴンゴロさんのパソコンのファイルのようです。

  8. ゴンゴロ | URL | -

    失礼しました。
    埼玉の蕎麦屋さんです。
    http://members3.jcom.home.ne.jp/kisikisuehiro/
    これではどうでしょう。

  9. ゴンゴロ | URL | -

    此方からでも入れます。

    http://soba-ya.com/

  10. 管理人 | URL | G5Zeud3U

    動画見ました

     お店が、さいたま新都心の近くなんですね。
     私の属する倶楽部の近所です。
     「砂粒状からくくりに入っている…」ということですが、適度の柔らかさのドウに成り得る加水は行われておりますね。画面上では見にくいですが、そういう状態が作られていると思います。

     その他、水回しの様子は大変参考になりました。
     加水では、やり方は少しちがいますが、表面から徐々になじませていくというのは同じでした。
     水分が存在する箇所と存在しないか箇所を合わせていく状況は分かり易かったですね。
     くくりに持っていくやりかたはスマートで、こんど真似をしてみようと思います。
     

  11. やま9 | URL | -

    わかりやい。水回しの科学的原理

    そば打ちがうまくいかないとき
    いつの拝見させて、もらってます。
    科学的に水回しが説明され、とてもわかりやすいです。
    学校の授業のようです。
    すばらしいブログです。そばをここまで、説明されているサイトはない。

  12. ブログ主 | URL | G5Zeud3U

    ありがとうございます

     ご評価を頂きありがとうございます。
     がんばりますッ。
     

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