延し(1)-基本原理は「地延し」の中に

2013年08月31日 10:04

 鉢、延し、切りの3つの作業のうち、ある意味で、延しが最も難しいかもしれません。「所定の厚み」と「所定の形状」という2つの要求を同時に満足させなければならないからです。
 地延しの段階では厚みがありますし、形も小さいですからなんとかやっていけますが、丸出しや肉分けあたりから、どうしても形状の方に目を奪われがちになり、厚みのコントロールがおろそかになります。
 さて、最初に、「のし」に充てる漢字についてですが、「のし」には「延し」と「伸し」があります。蕎麦打ち作業の場合、「圧延」という単語から連想されるように加圧の意味合いが感じられる「延し」が適当と思います。(「伸す」には「引き伸ばす」という語感があって、どうも不適当です。)

 では、まず、延しの原理について考えてみたいと思います。
 延しの原理は、地延しの作業の中に見出せます。
 写真(手前側)は、地延しの状況ですが、標準の手順通り中央部に小さい突起が作られております。
       jinosi.jpg
     
 下の図は、地延しの作業が一応終わった状態を表す模式図です。
 延し1

 この突起が作られる目的は、作業の最後に形状を修正することにあります。
 この例では、W側が十分に出ていませんので、これを修正するために、C部分の肉を使う訳です。
 仮に、このC部分がない場合、我々は恐らくW部分をいじって修正をするだろうと思います。ここが大変大事な点ですが、「W部分をいじると、確実にこの部分だけが薄くなり、後に続く作業に悪影響を与える」ことになりますので、そうしないようにしなければいけません。このことは、以後の延し作業の全行程に言えることです。
 
 次に、C部分の肉を使った修正のしくみを見てみたいと思います。
 下の図(①)は、上の図の「W-E」の断面図です。W側が短くなっています。
 延し2

 延しの仕組みですが、まず、加圧は図②のように赤色の部分に対して行われます。
 すると、赤色の部分のみが図③のように他と同じ厚みになって、W方向に変形します。そして、全体は、これに押し出される形でW方向に広がる訳です。
 これが延しの原理(原則)です。

 なお、以上のことは厚さと形状に着目した観察ですが、加圧にはもう一つ大切なことがあって、それは「加圧することで麺生地をしっかりしたものにする」という点です。これは大変大事な観点と思います。捏ねの作業で、しっかりしたドウを作っても、延しの段階で「骨粗鬆症」にしてしまっては、意味ありません(と思います)。(強く固められた麺線が良いのか、ゆるい麺線が良いのか、という論議があると思いますが、私個人としては前者であるべきと思います。)

 さて、本題に戻って、次は丸出し、肉分け、荒延し、本延しの場合です。
 生地はどんどん薄くなり、形状(広さ)は大きくなりますので操作は難しくなります。この過程では、厚みの存在が徐々に分かりにくくなり厚さのコントロールがおろそかになりがちです。その逆に、見て分かりやすい形状に目が行きやすくなり、一部分の形を良くしようという悪手(局所最適化)に陥りやすくなります。こうして、その一部分だけが薄くなってしまいます。地延しでは当たり前にやっていることが、この段階になると完全に忘れられてしまう訳です。

 下図は、丸出し~本延しにおける、麺生地の状況を示す例です。
 作業中、B部分に厚みが発見され、A部分に広げるのが適当であると判断したとします。
 延し3

 これに対して、延しを行いますが、下図はその模式図です。
 麺棒の動きに応じて、その直下が加圧され、変形に応じて生地は左へ押し出されていきます。
 延し4

 この図は、最初の図と同じことなのですが、麺生地の動きとしてはこのようになるというイメージを持つことが大事だということです。
 私もそうですが、一般に、B、C部分の厚みに関心が行かず、形状に目が行くので、A部分をいじって修正したくなります。しかし、麺生地は、さわればさわるほど薄くなるばかり(非可逆変化)ですから、ここはしっかり肝に銘じて、そうしないようにしなければなりません。

以上から、延しの作業の方針は、次のようになると思います。
 ①意識的に厚みに関心を持つようにし、まず、厚みのある箇所を捜索・探知する。
 ②その部分を加圧して、形状の修正をしたい方向へ押し出す。
ということになると思います。

 ただし、厚みのある箇所を探し出すのは簡単ではありません。
 高橋邦弘氏は「麺棒を操作する中で、麺棒を通して厚い箇所が分かる。」と言っていまして、手の感覚が一種のセンサーになっている訳です。我々のレベルでは相当困難でしょうから、手で触ったり、横から見て観察したり、あるいは常に想像力を働かすなどの方策を工夫し、訓練する必要があると思われます。


 以上、大変当たり前のことを大げさに書きましたが、未だに厚みに対する意識が低い自分に対する反省も込めて整理した次第です。
 また今回は、「延し」に関して、厚さと形状との観点で整理しましたが、本来は「加圧による麺生地の強化(しっかり化)」という点も大変重要ではないか、と思っていまして、このことは、次の機会に整理してみたいと思います。


コメント

  1. もっちゃん | URL | -

    とても分かり易い説明ですね。
    「見栄えの良い形」は味には影響しませんが、「厚さの均一性」は味に影響しますよね。
    カタチを整える時間は乾燥を招き、これも味に影響すると思うので、「美味しく打つ」ことが目的ならば、厚さに神経を集中すべきですよね。なかなか出来ませんが・・・・。

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