時間短縮(作業効率)

2013年08月12日 12:44

 本ブログの読者の方から、時間短縮についての質問を受けました。
 これは、段位の認定の際の大きなポイントですが、蕎麦は手早く打つという本来的な意味からも、大変大事なことです。
 時間短縮については、私も決して大きなことは言えませんが、以下のような考えで訓練を積んでいるところです。

 いうまでもないことですが、単に作業が早いだけではだめでして、要所要所でその作業の目標が達成されていなければなりません。つまり、この問題は「目標とする状態をいかに短時間で作るか」という「作業効率」の問題としてとらえなければなりません。言い換えれば、単に早いというのではなく、目的と合致して)無駄がないということです。

 次の表は、蕎麦打ちの作業を大まかに区分し、それぞれの作業の目標とする状態及びそれに対応した作業内容を表したものです。

  jitan.jpg

 「木鉢」では(A)効果的な撹拌と(B)効果的な加圧が、「延し」では、(B)効果的な加圧と(C)正確な成形が、「切り」では(D)正確な繰り返し運動が要求されます。(ちなみに、「効果的、正確な」という形容詞は、「目的に合致して無駄がない」という意味です。)

 さて、それぞれの作業内容について、経験を元にしまして、ポイントを列挙すると次のようになるかと思います。
A 効果的撹拌(手捌き)
 ・加水は逐次加水よりも一気加水
  熟達者も勧めるように、蕎麦の出来不出来の上からも、時間短縮上もこれが良い訳ですから、一回目に概ね全量(予定量の90%位?)を投入する。
 ・撹拌は表面から
  最初から指先を底部にまで突っ込んで撹拌すると、大きいダマができて、これを砕くのに時間を要することになります。手順としては、表面の撹拌から始めて、比較的小さいダマを作りながら、徐々に底部に移動していくのが良いようです。
 ・撹拌は高速で
  撹拌によって、水分の多い塊の部分と水分のない部分とを会合させ、また、塊同士の衝突で塊が砕けるという作用が発生する訳ですから、できるだけ高速で撹拌するのが良いわけです。
  
B 効果的な加圧(体捌き)
 ・体重の利用
  捏ねの段階から本延しの段階までの作業において、一貫したテーマは「加圧」です。そして、表で分かるようにこれが全体に占める割合は多いですから、いかに効果的に加圧するか、というのはとても重要です。
  よく言われるのは、体重を利用しなさいということです。
  体重を上手にかけるには、次のような着意が必要です。
  1.腕を伸ばして、自分の頭部を生地の真上又はその先にまで移動させるような動作を行う。
  2.諸作業は、できるだけ自分の体の近いところで行う。(目の下で作業する。)
  こうすることで、例えば、100グラムの力を10回加える必要がある場合に、これを500グラムの力にすれば2回の動作で済むわけです。 

C 正確な成形(+効果的な加圧)(体捌き、棒捌き)
 ・各段階における厚さ形を正確に作る
  失敗や事故の原因は前の段階に潜在しており、その段階で芽を摘んでおけば小さい労力(短い時間)で防止できます。北海道になってしまった生地を修正するのは並大抵ではありません。分かってはいるけど、先に急ぎたいために、いい加減な成形で済ましてしまいがちです。急がば回れとはこのことですね。
 1.均一厚で真円の地延し
  コンスタントな手捌き、体捌きをすることが必要です。
  自分に合ったやり方を定型化するのが良いと思います。
 2.均一厚で真円の丸延し
  前項に同じ。局所最適化(形状最適化)はいけません。
 3.正方形の角出し
  形状を観察しながらの効果的な加圧(体重利用で少ない回数)をする。
 4.直線・直角を意識した肉分け
  適宜の厚みにすることと麺線をしっかり決めることが重要です。
 5.均一厚の延し
  しっかりした麺にするためにも、加圧を意識した棒捌きが重要です。

D 一定繰り返し(リズム)運動
  切りの理屈自体は極めて単純ですが、実践は大変難しい。
  訓練しかありません。


 以上、まとまりのない内容になってしまいましたが、これをあえてまとめますと次のようになると思います。
1.時間短縮のポイントは、延しの作業にある。
  木鉢の作業には、どうしても一定の時間が必要ですので、これを短縮することは困難であるし、また好ましくないと思います。
  また、最後の切りの作業も、プロ級の技術に到達できれば別ですが、我々のレベルではどうしても一定時間が必要です。
  となると、残りは延しの作業ということになりますが、経験的に行っても、この過程には随分と無駄な手数を掛けているように思います。
2.いい加減な成形作業が、次の作業で足を引っ張る。
 その都度正確な成形が行われないないために、それが次の作業に悪影響を及ぼし、さらなる不要の手数を掛けるという状況に陥いります。早めに事故の芽を摘むことが肝要です。
3.小さな無駄を見逃さない(ちりも積もれば山となる)
  部分部分の小さい無駄を排除して、その累積で総合的な時間短縮が得られるということになる訳ですから、この着眼が必要と思います。(※参照)



 ※「風立ちぬ」という零戦設計者の堀越二郎を主人公にしたアニメ映画が評判になっていますが、堀越技師は零戦の開発にあたって「重量軽減」を大きな設計方針としました。
  無駄の徹底的排除です。
  機体の軽量化は、運動性能のみならず全体の性能の向上に寄与しますから、軽くするに越したことはないのですが、強度に影響をしますので、安易に削ることはできません。そこで、個々の部材や構造について、ぎりぎりの線で(目的を堅持しつつ)、無駄な重量を削るための血のにじむような努力をしていきます。その結果、世界に冠たる零戦が誕生し、大東亜戦争のまさに原動力となります。(結局、国力の差でジリ貧になっていきますが…。)
 これに似ています。
 
              ZERO.jpg
              (↑ 読み応えがあります)


コメント

  1. もっちゃん | URL | bZVCMemg

    蕎麦の弾力

    理論的な内容で、いつも参考にさせて頂いています。
    生粉打ち前提で、教えて頂きたい事があります。
    福島には十割蕎麦の店が多く、食べる前に蕎麦を引っ張って伸び具合(弾力)を確認するのですが、適度に伸びる蕎麦は畳んだ場所でも切れずに長い麺線になっています。
    このことと加圧作業の関係について教えて欲しいのです。
    「加圧が適切だと弾力が出る」のだとすると、それは何故なのでしょうか?
    また、適切な状態まで加圧出来たことは、何をもって確認できるのでしょうか?

  2. 管理人 | URL | G5Zeud3U

    もっちゃん様

     メールありがとうございます。

    >福島には十割蕎麦の店が多く、食べる前に蕎麦を引っ張って伸び具合(弾力)を確認するのですが、適度に伸びる蕎麦は畳んだ場所でも切れずに長い麺線になっています。
    このことと加圧作業の関係について教えて欲しいのです。
    「加圧が適切だと弾力が出る」のだとすると、それは何故なのでしょうか?

    → 弾力があり、切れにくいのは、ともに、麺生地が加圧されることによって密度が高くなっているからだと思います。
     密度が高いと、
    ①弾力(歪に対して元に戻ろうとする性質)が高まります。
    ②麺生地を構成する蕎麦でんぷん同士の密着がよくなりますから切れにくくなります。

     このことは、逆の状態である、十分に加圧されていない麺生地を想像すれば分かりやすいと思います。
     つまり、骨粗鬆症のような麺生地です。
     骨密度が十分でないため、歪が加えられると、元に戻りににくく、すぐに折れやすい、ということになります。

    >また、適切な状態まで加圧出来たことは、何をもって確認できるのでしょうか?

    → 作業途中の見た目では、分かりにくいと思います。
     想像ですが、生地が破れにくく取り扱いが比較的容易であるとか、サメ肌になっていない等が一つの確認方法かもしれません。
     (破れやすかったり、できた麺線が切れやすかったりして、そうだと分かっても、その段階ではもう遅いですね。)


     加圧には、麺棒の操作法が重要ですが、これについてはいずれ整理したいと思っています。

  3. もっちゃん | URL | bZVCMemg

    ご回答有り難うございます。
    加圧=密度を高める、やはりそうですよね。

  4. コボちゃん | URL | -

    延しの感覚

    はじめまして。水回し、四つ出しと一気に読ませていただき、とても参考になりました。おかげさまでさまざまな疑問に対する答えが見えたような気がします(といっても実際なかなかうまくいかないのですが。。。)

    さて、私の蕎麦も骨粗鬆症のように切れやすいことが多いのですが、加圧というキーワードで頭をよぎったことは、麺棒で延すときに麺を向こう側に延ばすというより、上から押し付ける、あるいはつぶす(加圧する)という感覚のほうがよいのでしょうか?そのほうが弾力があり切れにくい蕎麦になるのでしょうか。

  5. 管理人 | URL | G5Zeud3U

    延し

     コボちゃん様
     
     良い例えを思いつきませんが、大福餅のようなものを薄く広げていくとした場合、①端をもって引っ張って「伸ばす」やり方と、②加圧によって「延ばす」やり方が考えられますが、蕎麦にはどちらが良いでしょうか。
     どれだけ有意な差が出るのか分かりませんが、加圧してしっかりとした麺生地を作る方が、麺生地自体の密度が高まることから、切れにくく、食感の良い蕎麦になるのではないかと思います。(特に生粉打ち)
     蕎麦打ち作業のキモはこれ(加圧)ではないかと、私は思っております。
     (「麺生地を向こう側へ伸ばす」動作は、手前を巻棒で固定している場合などは、余程意識しないと、大福餅を引っ張るような状態になってしまします。)


     これまで、延しについて書いていませんので、近々、延しについて整理をしたいと思っております。

  6. コボちゃん | URL | -

    なるほど、加圧がキモですか。早速今日は加圧に意識を置きながら打ってみます。

    ところで頂いたコメントの中に「特に生粉打ち」とありますが、二八と生粉打ちでは加圧の意味合いが多少違ってくるのでしょうか?

  7. 管理人 | URL | G5Zeud3U

     つなぎに小麦粉が入っていると、小麦粉のグルテンが蕎麦(のデンプン粒同士)を繋いでくれますので、多少適当な加圧の仕方でも、相応の切れにくい麺線ができます。
     他方、生粉打ちではそれがありませんから、切れにくい麺線にするためには、しっかり加圧をして、十分にでんぷん粒同士のの密着を良くしてやる、という方策をとる必要があるものと思います。

  8. コボちゃん | URL | -

    アドバイスありがとうございました。これからも宜しくお願い致します。

    >加圧には、麺棒の操作法が重要ですが、これについてはいずれ整理したいと思っています。

    麺棒の操作法についても悩みどころですので、楽しみにしています。

  9. もっちゃん | URL | -

    延しでは、「猫手」で麺棒を使う方法が当たり前のように説明されているし、全麺協有段者の動画も猫手ですよね?
    でも生粉打ちには向かないことは、誰も語らないような気がします。
    是非、二八と生粉打ちの違いに言及して解説して下さい。

  10. ペー | URL | -

    時間配分

    詳細な解説、ありがとうございました。

    >となると、残りは延しの作業ということになりますが、
    >経験的に行っても、この過程には随分と無駄な手数を
    >掛けているように思います。

    同感です。片づけも入れて30分を目標にした場合、ドウができるまでが10分で、切りが7分、途中の手洗いや畳みの時間を入れると既に20分です。
    片づけに2分残すとすると、延しは8分ですね。無駄な作業は一切できないことになります。

    >部分部分の小さい無駄を排除して・・・

    そのような無駄のない所作が美しさにも繋がるのだと思います。
    今後もよろしくお願いします。

    先ずは4段の書類審査。今週末に発表です。

  11. ペー | URL | Lgp6w6G2

    四段位合格

    11月17日、四段位埼玉技能審査会にて、かろうじて合格しましたので、ご報告申し上げます。時間配分や汗対策などの記事では大変参考にさせていただきましたが、結局、本番に弱く、片づけも十分にできないゼロ秒での終了宣言でした。合格は合格なのですが、自分の蕎麦を打てたかという大きな課題を残した審査会でした。今後も手打ち蕎麦の普及と技術向上に精進したいと思います。よろしくお願いします。

  12. 管理人 | URL | G5Zeud3U

    合格おめでとうございます

     段位というのは良くできていて、多少のでこぼこはあっても、概ねその技量程度を表しています。四段というのは「まあまあの(大した)腕前」といえる思います。
     まずは、おめでとうございます。

     「課題を残した」そうですが、大変結構なことですね。
     思い起こせば、私も課題山積状態でした。

     これからも、楽しみながら悩み続けましょう。
     

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