水回し(2)-加水はほぼ全量一気に

2013年01月22日 15:57

 前回、水回しの目標値について書きました。2回目は、加水の仕方についてです。 
 良くある議論に「段階的加水か一気加水か」というのがあります。
 初歩的段階であれば前者、ある程度粉の操作が出来るようになった中・上級者であれば後者が良いと思われます。そしてまた、前回述べた「全体が一様な小豆粒状」に早くもって行くためにも後者が良いように思います。
 その前に、「片倉康雄手打そばの技術」(旭屋出版)という蕎麦打ちのバイブル的な本に、水回しについてどのように書いてあるかご紹介したいと思います。
<引用開始>
第2章第5項「水まわし」(109p)
「水まわし」とは、粉のひとつぶひとつぶに、まんべんなく水分を含ます作業である。
 この仕事は、次の二つの条件を守って進めることが大事である。
一、水の加え方:水は何度かに分けてチビチビ加水するのでなく、全量を一度に加えてしまうこと。
二、所要時間:文字どおりの「水まわし」(後述)は、加水後、およそ一分程度で済ませてしまうこと。
(中 略)
「水まわし」手順(一)(111p)
①そば粉と割り粉を木鉢にあける。
②粉を混ぜ合わす。
 そば粉と割り粉は軽く混ぜ合わせ、鉢の中央にまとめておく。平らになるように。
③水を加える。
 適正量の水を全量、中央に加える。粉が跳び散らない程度の低い位置から、ザアーッとあければよい。
④水の滲みたところに、周囲の粉をかぶせる。
<引用終わり>

 ということで、「予定量の全量を『ザアーッと』一気にあけろ」と言っています。
 そして、「1分で終わらせろ」といっています。
 一つめの一気加水の理由については、次のように書いています。(少し長いですが引用します。)

<引用開始>(112p)
 加水を何度かに分けるのは、どうしてよくないのか。
 それは、粉のひとつぶひとつぶに、平均に水がまわらないからよくないのである。水を余分に含んだところができる一方で、水のまわりの充分でないところもできてしまう。そればかりか、小さな塊をつぶしてみると、最後まで粉のままのところが残っている場合も少なくない。

 何度かに分けて水を加えるとなれば(足し水の場合も同じことだが)、初回に加える水は必要量に充たない。粉の量に対して、水の量が絶対的に不足している。粉のひとつぶひとつぶにまで水が充分に行き渡らぬのは、考えてみれば当然のなりゆきである。

 それにまた、かきまわす作業がなにがしかは進んでいるので、すでに水を吸った粉、まだ水を吸っていない粉が、複雑微妙に入り混じっている.じつは、これが問題なのである。そういうところに再度、水を加えたら、何が起こるか。

 木鉢の中の粉は、再加水を必要とする箇所だけに限って足し水できる状態にはない。複雑微妙に入り混じっている。そこに再加水する以上、足し水は、水の足りないところに滲みこみもすれば、すでに充分に水を含んでいるところに、さらに余分な水が加わりたがることにもなる。つまりは水が平均せず、粉のひとつぶひとつぶにまんべんなく水分を含ませる、という水まわしのねらいから外れてしまう。

 恐ろしいもので、水を充分過ぎるほど吸った小麦粉のタンパク質が、かきまわしているうちにグルテンとなって粘性を発揮し、小麦粉デンプンと結びついて固まると、そば粉はもう寄りつけなくなってしまう。

 かくして、水を充分に吸って粘り始めるものがある一方には、いつまで経っても水にありつけず、粉っぽいままに捨て置かれたところもできてしまいやすい。それをなんとかしようとして、水を足し、粉を足し…で奮闘するうちには、昔の職人が「殿様そば」と言つて軽蔑した、抱腹絶倒のそばができあがる次第となる。
<引用終わり>


 要は、段階的加水では、1回目の加水は所要の量ではないので、水の入った箇所Aと入っていない箇所Bが発生する。そこに、2回目の加水をすると、Aにはより水が入り、Bには2回目の加水分しか水が入らない。そして、この関係は最後まで続き、加水の程度が場所(粒)によって異なるということになる、というものです。

 片倉さんは、更に厳しいこと「水回しは1分で終われ」と言っておりますが、その理由について、次のように書いています。
<引用開始>
 それにしても、どうして一分くらいのうちに水まわしを終えてしまわなければいけないのか。結論から先に言うと、これもまた加水の原則と同じく、粉全体に均質に水を吸わせるためである。

 粉をかきまわす手に遊びがあると、動いているのは一部の粉だけになり、水はどんどん一部の粉に滲み込んでしまう。そして水を充分過ぎるほど吸った粉の中では、かきまわしているうちに、すでに述べたような小麦粉タンパクの作用が始まる。水をしっかりかかえ込んで粘り出し、無数の小さな塊ができる一方で、まだ粉のままの粒との間での水のやりとりは難しくなっていく。

 その失敗を避けるためには、割り粉のグルテンがはたらき出す前に、粉のすべてにムラなく水を吸わせてしまわなくてはならない。それには、できるだけ早いうちに水まわしを終えてしまう必要があり、ーかくして一分程度という時間的な目安が生まれてくる
<引用終わり>


 大きなポイントは、グルテンの性質である、としています。
 1分経つと、グルテンが働き出し、水をいち早く抱え込んでしまって、全体として一様に配分されるべき水にムラが出来る、ということです。
 
 以上、片倉先生によると、水まわしは「一気加水で、1分以内に終わらせる」ということになります。
 片倉先生は深くかつ広い研究と実践をされておりますから、これはほとんど正しいと思われます。
 ただし、「1分以内」ということについては、この本には、こうすれば1分以内にできる、という具体的な記述はありませんでした。1分という数値はともかくも、そのくらい手早く、できるだけ短時間で、ということだと思います。

 さて、一気加水にすること、出来るだけ手早く行うことについては、多くのプロもそうしているようです。
 一気加水の様子を示す写真を以下に掲示したいと思います。


■片倉康雄氏の加水の仕方
     katakura.jpg

 「片倉康雄手打ちそばの技術」掲載の写真です。
 「全量の水を中央部に注ぐ」と書かれています。


■高橋邦弘氏の弟子筋の某氏による催事場でデモの様子です。(上に見えるのはボウルの底です。)
     takahasi.jpg

 前の作業の切れ端を水に入れておいて、予定量の全量を一気に加水しています。
 この場合も、中央部に注いでいます。


■蕎麦屋「五衛平」氏の加水の仕方です。(HPに掲載されている動画)
     gohei.jpg

 1回目加水量が明言されていませんが、2回目の加水状況からすると、予定量の90%+が一気に加水されています。
 この場合も、注がれている場所は、中央部の非常に狭い範囲が意識されているようです。


■高橋邦弘氏の蕎麦うち解説ビデオから、加水の場面です。
     takahasi 95

 加水量は、「予定量の95%を一気に投入」するとコメントされています。
 注がれている場所は、中央部です。


 以上が、加水の仕方の状況です。
 一気に、ほぼ全量が投入されていますが、もう一つのポイントは、中央部にほぼ集中して注がれているという点です。よくやられる、「の」の字に、粉の全体にぐるぐると垂らしていくのではありません。
 なぜそうするのか。
 次回、整理をしてみたいと思います。


        katakurahon.jpg






以下、余談です。
 片倉先生は、段階的加水について次のようにも言っています。
<引用開始>
 何度かに分けて加水するのは、失敗を恐れてのことであろうか。「全量の水を一度に加えて、もし多過ぎたら…」というためらいや、「一度に多量の水を加えると、泥んこ遊びのようになって、水まわしがしにくい」といったところから出てくるものと思われる。
(中略)
「一度に全量の水を加えると、水まわしがやりにくい」ので、何回かに分けて加えるやり方にしたという人、ーその人は、自分の水まわしの技術と仕事の仕方を、一度根底から疑ってみる必要があるのではないか。なぜかと言えば、「一度に全量では、やりにくい」という感想そのものが、その人の技術に難点のあることを告げているためである。水まわしは、本書で述べるやり方をするかぎり、全量の水を一度に加えて始めたところで、決して難しいものではない。
<引用終わり>

 上級者に、実地に指導を受けながら、ある程度経験を積めば、概ねできるようになるようです。
 「切り」よりは、簡単かもしれません。




コメント

  1. ゴンゴロ | URL | q/P2XN1Q

    始めまして、そばうち初心者です。
    この記事は凄く参考になりました、次回も期待しています。

  2. 大泉 勝 | URL | sktWpA2Y

    一気加水

    加水に対して疑問を持っていました。何度やってもうまく繋がらないし、麺のこしも今一でした。騙されたつもりで90%加水して、残りで調整をしたところ麺の繋がりも、こしも強い麺が打てました。茹でて麺を食べ始めてから、食べ終わるまでにこしが持続しているようです。その後、2度打ちましたが、前述したように水回しが画期的に進歩したのがわかりました。
    ありがとうございました。

  3. 管理人 | URL | G5Zeud3U

     コメントありがとうございます。
     「一気に全量(100%)」というのは、一日に一玉しか打たない素人には大変危険ですが、「90%程度を一気に」というのは適当だと思います。
     その際のポイントは、できるだけ短時間で仕上げるということになりますが、下の動画が参考になると思います。
     https://www.youtube.com/watch?v=JrlaJTQ691w

     「こし」については、その定義自体が詳らかでないので何とも言えませんが、「しっかりしていて張りのある麺」というような意味であれば、水回しの影響よりも、捏ね、延し、茹でとの関連性が大きいのではないかと思います。
     大泉さんの技量が、水回しだけでなく、捏ね、延し等についても向上したということではないかと推察します。

     でも水回しの水加減というのは難しいですね。
     ついこないだは、入れ過ぎてしまいました。

  4. 彦十 | URL | 2fLEWXmk

    悩みが解消しました。

    劇的に蕎麦の状態がよくなりました。

    ありがとうございました。感謝!!

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