そばの香りとは?

2012年07月21日 11:56

 前回の記事では、そばは、姿・形だけではなく、香りが大事な要素であり、それを生かすための打ち方も工夫しなければならない(かもしれない)、ということを書きました。
 で、その香りとは何か。
 そこら辺から整理をしてみました。
「匂いの科学」という本があります。
 nioinokagaku.jpg

 この本では、「匂いの感覚、嗅覚とは何か」から説き起こされていまして、匂いについての大まかなメカニズムについて、次のように書かれています。

<引用始>
 嗅覚(きゅうかく)とは匂いの感覚で、大気の中に浮遊する有機・無機の化合物の分子の一部が鼻孔より吸入され、鼻腔の最上部にある嗅上皮の感覚細胞(嗅細胞という)の一部に吸着されると、その細胞が興奮し、分子のもつ化学的情報が電気的信号に変換されて、脳に送り込まれ、大脳の嗅覚領に到達すると、そこに匂いの感覚が起こることになる。
<引用終>

 つまり、そばに含まれる匂いの分子が、そばから空気中に流出し、浮遊し、鼻の中の嗅覚の細胞に触れ、それが電気信号になって大脳に伝わって、「あぁ、いい香り」となる訳です。
 では、その匂いの分子とはどういうもので、どのようにして空気中に流出するのでしょうか。
 「匂いの科学」では、次のように説明しています。

<引用始>   【】内は、私のコメントです。
「有香物質(匂いを有する物質)」
 匂いを感ずるためには、匂い分子が鼻の受容細胞に到達し、そこで相互作用を起こすことが必要である。そのため有香物質にはある種の条件が必要である。

 【有香物質とは、匂い分子といわれる分子などから構成される物質です。そばの場合、含有されているたんぱく質またはそば澱粉だと思われますが、よくわかりません。これが、鼻腔部に到達して匂いとして感知されるためには、以下のような条件が必要である、ということです。】
1 分子量が300以下であること
 物質を形成する分子が蒸気圧を持たなければ、空気によって鼻に届かない。分子が揮発性をもつためには分子量に制限が出てくる。現在では有香物質の分子量は26~300といわれている。

 【分子量とは、水素原子の質量を1としたときの、その分子の相対的質量です。そして、「蒸気圧を持つ」というのは、簡単に言えば「蒸発し得る」ということです。水回しのときに、香りが立ちますが、あれは水に溶け出した有香物質が、常温で蒸発する現象と考えられます。
 さらに、有香物資として分子が揮発性を持つには、分子量が大きい(重い)とだめでして、26~300程度であることが必要であるということのようです。金属などのように分子量が非常に大きいものは、揮発しにくいし、匂わないということでしょうか。】
2 水及び脂質にある程度の溶解性があること
 匂い分子が鼻に到達してから、鼻の粘膜の水層を通過して受容器に到達するには、ある程度の水溶性が必要となる。さらに神経細胞の脂肪層に入りこむために、脂質への溶解性も必要といわれている。

 【上の蒸気圧と関係があると思われますが、有香物質(匂い分子)が一旦水に溶け出して蒸発をすることによって空気中への流出が容易になる、ということだと思います。固体からも空気中への流出は可能ですが、我々の体験的にも、液体からの流出が効率的であるということだと思われます。後段の脂質云々については、「…といわれている」ということですから、当然私には解りません。】
3 分子内に官能基や不飽和結合が必要
 以上の条件をもつ有香物質を整理してみると、カルボニル基、水酸基、エステル基のごとき官能基や不飽和結合を有している。(以下略)

【官能基とは、その有機化合物(この場合、有香物質)の性質を決める「原子の集まり」のことで、分子式で表現すれば、-OH、-CHO、-COOH、-NH2などのことですが、ざっくりとした理解でいけば、「このような分子式を有する有機化合物であること」ということでよいように思います。】
<引用終>

 さて、固い引用が長くなりましたが、以上のことを「そばの香り」の問題に当てはめると次のようになるのではないかと思います。

 そば粉には、有香物質が含まっています。
 それは、たんぱく質又はでんぷんと思われますが、分子(匂い分子)レベルで言うと、-OHなどのような官能基を有する有機化合物です。
 そばは、粉の状態では空気中への流出が顕著でないために、強い香りはしませんが、水を加えて水回しを行うと、ある時期に強い香りを発します。これは、匂い分子が水中に溶け出して、しばらくして、この匂い分子の持つ蒸気圧に至り、蒸発(空中への流出)が始まるからです。

 ここで、蒸発についての状態を図で整理してみたいと思います。
 物質は、固体、液体、気体という三つの姿を持っています。

   3態
 
 ひとつの丸は、ひとつの分子です。
 固体では、わずかな振動をしているのみで、大きな運動はありません。
 これが液体になると、互いに引き合いながら(分子間力)、比較的自由に運動をしています。ちなみに、温度が上がったりすると、その運動が大きくなって、激しくぶつかり合いますから蒸発(空中への流出)がしやすくなります。
 気体では、分子は、激しくかつ大きく自由に運動をしています。

 これをそば粉でいうと、左の図の「固体」はそばの粉の状態でして、その粉を分子レベルで見ると、この左の図のような状態になっている訳です。この図の赤丸をそばの「匂い分子」であると考えますと、匂い分子はほとんど外に出ることがないので、匂いをほとんど感知することはできません。
 
 中央の図は液体の状態ですが、水回し中のそば粉との関連について、新しく次の図を用いて考えたいと思います。
     lect28-01.gif
    
 左の図は水分子の液体状態を示しています。水分子は、液体状態で運動をしていまして、中には外に飛びだすものがあります。
 右の図は、他の分子(赤丸)が、水に溶けている状態です。
 いうなれば、これは水回しの状況でして、水とそば粉(の香り分子)が出会っている様子です。図では、そばの香り分子のひとつが空中に飛び出そうとしています。これが空中に流出し、鼻腔に至ればそばの香りがする、…という訳です。

 水回しでは、その香りは、急になくなってしまいます。
 これは、つまりは、飛び出す分子が少なくなったからです。

 その理由は、次のように考えられるのではないでしょうか。
 赤丸の分子は、水分子とともにぶつかり合いながら動き回っていますが、動きが大きいほど空中に飛び出しやすいといえます。

 水回しでは、最初はダマの状態(玉が、ぶよぶよ、チャプチャプの状態)ですから、ダマの中の分子の運動量も大きく、匂い分子や水も空中に飛び出し易い状態といえるのではないでしょうか。その後、水が行き渡って行き、造粒作用が働き始め、ドウの状態になって行きます。これは言い換えれば固体に近づいていくということですから、分子の運動も小さくなり、匂い分子が飛び出すことも少なくなります。
 しかし、全く出ていないかというとそうではなく、わずかづつですが、匂い分子は流出をし続けていると思われます。このことは、ラップなどで包んだ生そばは、時間が経っても、ラップを開いたときにそばの香りがふわっとすることでわかります。

 また、そば粉が古い場合には、水回しの際に香りがでません。これは、匂い分子が酸素と化合するなどして変質してしまい、匂い分子でなくなってしまっているのか、あるいは、酸素との結合で、分子量が300よりも大きくなって空中への流出ができないのかもしれません。または、ひょっとすると、匂い分子が徐々に徐々に空気中に流出してしまって、そば粉の中に存在しなくなっているのかもしれません。
 この辺はよくわかりません。

 以上、匂いのメカニズムを元にして水回しの際のそばの香りについて整理をしてみました。本当は、そばを食べるときの香りについて調べなければならないのですが、こちらは、想像することすら困難に思います。
 香り分子は、麺線内のそばの部分に存在しているのか、それとも麺線内の気泡(隙間)部分に漂うようにして存在しているのか、そして、いずれの場合であっても、沸騰という状態を乗り越えて、麺線の外に流出することなく麺線内に留まり、噛んだ時に香り分子が流出するものなのか、等々、等々。

 こうなると、もう想像の遊びの領域を超えますね。
 


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